iSCSIはどこへ行った?

4年ほど前にiSCSIというデータを転送するためのストレージプロトコルが世間を賑わせた頃がある。「iSCSIはFCに変わる」、「iSCSIの出現でストレージエリアネットワーク(SAN)の世界は大きく変わることになる」と雑誌は騒ぎ立てていた。実際にふたを開けてみるとどうだろうか? iSCSIはまだそれほど普及していない


iSCSIとは、シスコシステムズIBMが提案しているSCSIコマンドをTCP/IP/Ethernet上で伝送するための技術である。SCSIコマンドがトランスポート層TCPカプセル化され、TCP/IPヘッダが付与された後、IPパケットとして転送できるようになる。IPのネットワーク上をSCSIデータを流すことができる画期的な技術だと取り上げられたが、やはりサーバとストレージの間のデータを転送するためのネットワークである。TCP/IPの世界とは違いパケットは無くせない、性能も求められるという理由で普及しなかった。
またその頃は、iSCSIは既存のIPネットワークを使えるので扱いやすく、ネットワークエンジニアが管理できるので導入がしやすいと言われていたが、結局はネットワーク内を通るデータに関して少なからずストレージに関する知識が必要になるので、ファイバチャネルでもiSCSIでも管理者の負荷は同じとなるためそれほど広まりを見せなかった。


同じ頃、サーバとストレージ間の重要なデータを既設の社内ネットワーク(LAN)を通してよいものかと議論もあったことは事実である。時間によっては大量のデータ転送が伴うサーバ−ストレージ間転送が既設のLANの負荷を高めてしまったら元も子もないので、iSCSI専用にネットワークを作る必要もありiSCSIは既存のネットワークを通すことができる画期的な技術であるというメリットはなくなってしまったのである。


また、ストレージベンダのiSCSI対応製品出荷の遅れ、iSCSI対応HBAの価格高、ファイバチャネル製品の需要増など様々な影響もあり、iSCSIは忘れられる存在となってしまった。未だにストレージベンダ各社は比較的高く販売できるファイバチャネル製品を好むし、IPネットワークに接続できてしまうということはイコールベンダの垣根は取り外されてしまうことと同じである。まだ多少製品の相性が残るストレージ業界の製品ではベンダの垣根を取ることは売り上げの減少にすぐに繋がってしまう危険性も捨てきれない。iSCSIはおそらくこういったベンダの思惑もあり、ユーザの手に届く前に無くなってしまったのだと思う。


今後はベンダの垣根がなくなる時代に突入する。目先の利益を考えずにユーザのための仕組み、ユーザが本当に必要だと感じてもらえるようなソリューションを提供してもらいたいとベンダに問いたい。